会計系の資格を取ってその道を目指したいと思った時、会計事務所と企業の経理で働くのではどっちが良いんだろう、あるいは何か違いがあるのだろうかと思う人は多いと思います。
私は会計事務所で1年(だけ)働いた後、企業の経理職に転職してもう15年以上が経ちます。その経験を踏まえて感じるのは:
どちらが良いかはその人のバックグラウンドや適性、目指す方向性による
ということです。会計事務所と企業の経理は似ているようでかなり違うと私は思います。結論としては:
税務、会計のプロを目指すなら会計事務所、単に会計に留まらずビジネスや経営全般のノウハウを身につけたいなら企業の経理
になると思います。私が自分の経験の範囲で感じた両者のメリット、デメリットを記しました。
項目 | 会計事務所 | 企業経理 |
担当する帳簿の数 | 10-20社 | 1社又は数社 |
給与計算 | 毎月担当の顧問先の数だけ | 月1回あるいは外注する | 月次決算 | 日々 | 月末・月初 | 年次決算・税務申告 | 毎月数社 | 年1回 | 税務知識 | めちゃ必要 | あまりいらない | 日商簿記 | 1級を「1級程度」と呼ぶ | 2級もあれば十分 | 入力業務 | 超高速、超正確 | スピードより正確さ | 職員に求めるもの | プロ意識 | スキル向上、チーム作り | 夜や週末 | ひたすら勉強 | 自由、自分次第 | 現金出納帳 | 帳簿入力のみ | 現金実査や内部統制も | 売掛金-請求書発行 | しない | する | 売掛金-システムへの入金処理 | しない | する | 売掛金-回収状況 | エクセルで表程度は作る | ソフトを使用し社内ミーティング | 買掛金-発注書との照合 | しない | 購買システムでチェック | 買掛金-請求書の社内承認プロセス | 関与せず | チェックする | 買掛金-支払の社内承認プロセス | 関与せず | チェックする | 買掛金-支払状況の確認 | しない | 表を基にミーティングも | 棚卸 | 年度末は関わる場合も | 毎月、四半期ごとなど定期的 | 固定資産管理 | 請求書の入力、台帳の作成程度 | 承認プロセスから棚卸まで全般を管理ソフトで管理 | 売上、経費チェック | 月次レベル | 日々。KPIもチェック | 内部統制・監査 | 基本的にサービスの範囲外 | 年1回の外部監査及び定期的な内部監査 | 予算作成 | しない | 毎年、年1回 | フォーキャスト | しない | 毎週、毎月など定期的 | 損益計算書、貸借対照表の分析 | 第三者なのであまり細かくは。。。 | めちゃくちゃ細かくする | リスクマネージメント | しない | 経理は主要な部署にされがち | 他部署との関わり、交流 | なし | 日々あり | 会社のビジネス、商品知識、業界知識 | 良くわからない | 嫌でも深く知る |
ざっくり比較すると、こんなところでしょうか?一番上から「夜や週末」までは会計事務所の方がメリットがあるように思えます。会社が違えば帳簿も違いますし、10社、20社の帳簿をこなせばそれだけ帳簿処理、税務計算などで経験値、引き出しが増やせるのは最大のメリットだと思います。また、企業の経理だと売掛担当、買掛担当、給与計算担当など1,2年ずつじゅんぐりやってからようやく月次決算に関われるような感じになるなど時間がかかりますが、会計事務所なら入社して間もなく月次決算に関わらされて、年次決算、税務申告補助まで一連の流れを複数の企業分体験できるので、1年目にして経理部長的な目線で見る感覚を養うことが出来ると思います。この点は会計事務所から企業の経理に転職した時に強く感じました。そもそも年次決算や税務申告などは企業の経理で働いていれば年1回しかない出来事なので、1年で10回、20回と年次決算を経験出来る会計事務所で働けば企業経理の10年、20年分の経験値に相当するわけです。その意味で会計事務所は正しく会計のプロを育てることに専念している感じです。
一方、企業の経理は帳簿入力、会計だけに留まらず、会社を経営、運営していくうえで必要な様々な知識、分野について深く学ぶことが出来ると思います。例えば、買掛金ひとつとっても会計事務所では請求書の入力をして終わりという程度だと思いますが、企業では発注書、稟議書の作成から社内での承認プロセスを経て発注、納品、支払いと多岐に渡るわけでその一連の流れを体験できるのは企業経理の最大の魅力です。そして、内部統制や監査、予算・フォーキャストの作成、コストの分析・コントロール、アクションプランの作成など他の部署を巻き込んで一丸となって会社の業績を改善していくというのも会計事務所では経験できない醍醐味だと思います。
私の会計事務所時代
会計事務所で働くと私も含めて皆昼間は仕事でひたすら税務、会計の処理、ランチの時は税務、会計の話や税理士試験の話、夜や週末は学校で会計や税務の勉強という感じで起きているときは文字通り税務、会計の話しか入ってこない状況でした。今、世の中で流行っていることや趣味(スポーツ、ファッション、音楽など)などの話は、たまに息抜きでちょっとすることは許されても、しょっちゅう話しているようなら「試験受かる気あるの?」という空気が漂いそうでシャットアウト。会計に限らずプロになるならこのくらいの事は修行としては当たり前と思う方もいるかもしれませんが、私には「これって本当に正しい人生なんだろうか?」と疑問を感じるようになりました。この時期は人との交流もなくなり本当に世の中のニュースや流行りものなどについての情報がほとんど入ってこず、そんな時期が3,4年は続いたと思います。
じゃあ経理のプロでしょ?と思われる方もいるかもしれませんが、帳簿の仕訳の仕方や税金の計算方法などテクニック的なことは学べてもそれ以外のことがまるでわからないのです。例えば自動車整備関係の事業をされている顧問先から請求書を預かってきます。請求書を見ると例えば「M123456 – 1,000円」とかしか書いてなく、チンプンカンプンです。要は車の塗装用のペンキの製品番号と金額が書かれているだけの請求書だったのですが、その事業に携わっている人でないとまずその請求書に書かれている内容が全然分かりませんし、何でそれが必要か、何故その仕入れ先から仕入れているか、その請求書に記載されている金額は本当に安いのかなど知る由がありません。他の職員や上の人に聞いても基本的に話す時間もないくらい忙しいので、「前月どう処理されているか見て同じように処理して」という答えしか返ってきません。零細企業でも毎月請求書は何十枚か受け取ります。処理している私としても中途半端でしたし、ストレスにもなりました。
要は会計事務所は第三者的な立場ですし、基本は顧問先に代わって帳簿付けや給与計算、税務申告をするのが根幹のサービスで、付随サービスとして損益の分析や売掛の回収状況などチェックするにしても、あくまで第三者として紙に表示された数字をもとにアドバイスするので、自分がそのビジネスのど真ん中にいてアドバイスするのとは全然質あるいは深みが違うわけです。もちろんベテランの所長や企業での経理経験のある職員の方ならもっと深く分析してアドバイスもできる人もいると思いますが、企業の経理で働いていればそれらも日々、週レベル、月レベルなどでチェックが行われ、他の部署も巻き込んでミーティングが行われますし、営業や社内の様々な部署との日々の交流を通じて、その会社のビジネスや商品、業界については嫌でも深く知るようになるので、ビジネスと帳簿が常につながっている感じが肌感覚でわかります。
実務経験なしで資格の勉強だけで働き始めた私にとっては「これはまず、会社の経理で働かないとだめだ」というのが出た答えでした。そして、会計事務所から企業の経理に転職しました。
なので、会計事務所と企業の経理のどちらが良いかはその人のバックグラウンドや適性、目指す方向性によると思います。税務、会計のプロになってそれで食べていきたいなら会計事務所の方が良いと個人的には思います。そうでなく、ビジネス全般、経営ノウハウなどを身につけたいのであれば、企業の経理の方がお薦めです。
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